【映画】「海獣の子供」レビュー

概要

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アニメーション映画「海獣の子供」公式サイト

鉄コン筋クリート」、「ハーモニー」のSTUDIO4℃の作品。

製作におよそ6年はかかってるらしい。

 

ストーリー

海辺の街(江ノ島近辺)に住む女子中学生・琉花(るか)は、夏休みのハンドボール部の練習でちょっとしたいざこざを起こしてしまい、夏休み初日から暗い気持ちを抱えていた。

ふと、幼い頃に来た水族館に行った琉花は、海でジュゴンに育てられたという少年・海と出会う。

続く翌日、海を探しに行った砂浜で、今度は海の兄である空と出会う。

琉花と海と空、3人のひと夏の不思議な出来事が始まる…。

 

本作は、マンガ原作であるが、ストーリー構成が多少変わってるとのことである。

マンガのほうはわたしは読んでいないためよく知らないが、映画自体はひと夏の琉花の成長物語になっている。

序盤で、ハンドボール部で問題を起こしてしまう琉花の姿と、終盤でその問題を起こしてしまった相手へ向き合おうとする琉花の姿が、うまい具合に対比になっている。

海と空、そして3人で関わった不思議な出来事、そのほかのいろんなキャラクターと接したことで、成長したのがよく伝わってきた。

 

一方で、本作にはとても大事なテーマというか、メッセージが語られている。

我々人間もまた、宇宙人であり、宇宙の一部なのだ、ということ。

そして、人間の感覚や科学的な観測では決して捉えることができないものが、宇宙の大部分を占めているのだ、ということ。

演出にも関わることだが…空と海、そして海の中の生物の描写を通して、自然の壮大さや雄大さ、そして不思議さを強く感じ取れる。

 

基本的には満点をつけたい本作だが、あえてマイナス…というべきか、気になるところをあげるのであれば、全体的にハイカロリーであることである。

独特な絵、ファンタジックなストーリー、凄まじく書き込まれた空と海と生物たち、効果音、そして終盤の描写…と情報量がとても多いのである。

まず、間違いなく1回では上記のテーマまで理解が追いつけないのではないだろうか。

 

わたしの場合、たまたま製作者の舞台挨拶を聞くことができ、そこで語られて初めて「ああ、そう言えばそんなことを言っていたシーンがあったな」と思い出したレベルである。

ストーリーが1回見ただけではぼやけて捉えてしまいがちなのだ。

そう、逆に言うと、本作は1回見ると間違いなく複数回見たくなる。

それだけの力がある作品だと感じた。

 

演出

その力のひとつ、演出である。

本作はそもそもからして、キャラ描写がとても独特でマンガ的である。

一方で、風景や海、そして海の生物が凄まじく細かく描写されている。

 

琉花が海を潜るシーンがなんども出てくるが、人間が息をしなければいけないのがもどかしいとすら感じた。

実際に自分が潜っている訳ではないのに、である。

海と空は皮膚呼吸ができ、息継ぎの必要がないという設定である。

琉花がその2人にはどうしたって追いつけない。

泳法や息継ぎの有無といった差があって、追いつきたいのに追いつけない。

その琉花のもどかしさのような、悔しさのような、そんな感情が伝わってくる描写だった。

 

そのほかだと、やはり迫力があり、そして雄大な自然を感じることが出来たのが、ザトウクジラが海面から飛び出し、そして海面に潜る描写である。

アニメであそこまで表現してしまうのか、ととても衝撃を受けた。

海の生物たちの描写の力の入れようは、生物の不思議さと愛おしさを感じられる。

この映画の魅力のひとつだ。

 

一方で、これまたマイナス…というか、気になったところを書くとすれば、終盤の隕石や宇宙人の表現がファンタジックすぎること、そして少々長くてくどいことである。

まぁこれは個人によって十分と不十分のバランスは、とても感覚的なものであるので、あくまで個人目線でそう感じた、と思って欲しい。

 

音楽

ピアノを中心とした劇伴、エンディングの米津玄師の曲は素晴らしい。

…のだが、何より個人的に取り上げたいのは、音楽というよりは効果音である。

特に、クジラの鳴き声(劇中ではソングと表現されていた)がすごいのである。

たまたま、自分が見た映画館の音響のせいなのか、クジラの鳴き声の重低音が耳だけでなく肌にも伝わってきた。

これはさすがに映画館で見ないと体感できない、この映画の魅力のひとつかもしれない。

 

個人的に刺さったシーン

やはり、まずはザトウクジラが海面から飛び出すシーン。

これはもう実際見てもらえればわかる。

 

続いて、海と空を追いかけるように琉花が潜り、泳ぐシーンである。

琉花の視点で描かれており、琉花が水をかいて泳ぐさま、水泡が流れる様子がとても細かく描かれている。

 

そして、琉花が自転車を漕いで海岸を走るシーンである。

雨の中を自転車で走るのだが、水中を走っているかのような、感覚的な描写で描かれている。

水を舞台にした本作ならでは、である。

 

最後に、序盤の琉花が坂道を駆け下りるシーンである。

これは本作の独特な人物の動きの描写と、絵画的な風景と、そしてCGによる滑らかな画面移動が同時に体感できるシーンである。

些細かもしれないが、個人的にとても印象が深いシーンだ。

 

人に勧められるか?

★★★★★ (5点中5点)

独特で綺麗すぎない人物の描写、力の入った空と海と生物、独特でファンタジックな演出、そして深いメッセージとテーマ性、迫力ある効果音…と、とにかくハイカロリーすぎる内容。

そして、終盤のファンタジックにすぎる描写と気になるところはある。

これは賛否両論とそして人によって受ける受けないがハッキリ別れる作品であることは間違いない。

 

だがそれでも、一度は見て欲しいと勧めたくなる。

しかも、これはぜひ映画館で見るべき作品だ。

そして、一度見てその内容に衝撃を受けたなら、何度となく見たくなる。

見ないと理解が追いつけない。

理由はとにかく一度見れば分かる。

 

なんという作品を作ってくれたんだ…。

こうやって書いてるうち、また見たくなってくるじゃないか。

都内では、やってる映画館がもうほとんどないのが惜しい。

 

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