概要
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映画『天気の子』公式サイト
「君の名は。」で一躍有名監督になった新海誠監督の、2019年の最新作。
やたらと新宿近辺を舞台にしたがる監督だが、本作も重要な場面は新宿付近が舞台である。
ストーリー
異常気象で雨ばかりが続く日本。
東京都の離島に住んでいた森嶋帆高は、島での暮らしに嫌気がさし、単身東京の新宿へと家出をしてきた。
東京への船の中で知り合った須賀圭介のもとで暮らしていたが、ある時、天野陽菜という少女と知り合う。
その天野陽菜は、空に祈りを捧げると、短時間かつ局所的ではあるが晴れにすることができる、100%の晴れ女だった…。
本作は、前作「君の名は。」が大ヒットし知名度が上がりに上がった、新海誠監督の映画である。
…が、前作が気に入ったからという理由で、前作同様の作風を期待して本作を見ると、確実に痛い目を見る。
前作はかなり一般ウケする作風だったのに対し、今作は明らかにベクトルが違う。
ファンタジックで過酷な運命に囚われたヒロイン。
そのヒロインを救うため、社会にさえ抗う主人公。
そして世界か、ヒロインか?という選択。
選択の結果で世界を変えてしまう、いわゆるセカイ系の作風。
そして前作以上にセクシュアルな要素が増えてる印象。
こういう言い方はしたくはないが…明らかにオタク要素が増えている。
ぶっちゃけ、よくこんな映画がヒットしてるもんだ、と思う。
ここまで否定的な書き方をしているが、わたしは本作が好きだ。
なぜなら、わたしもオタクの端くれだからである。
本作を形容するのに、よくゼロ年代のエロゲっぽいと言われる。
実際、本作を見た今では、わたしもそう思う。
ゼロ年代のエロゲをいくつかプレイした経験があり、そしてそれらが好きなわたしが、本作を好きにならないはずがない。
そして、だからこそ心配になるのが、こんなのがヒットして大丈夫なのだろうか?ということだ。
ましてや、わたしが劇場に足を運んだときには、かなりの子連れ(しかも小学生以下っぽい)がいた。
「これを親子で見て大丈夫なのか…?」と思わず余計な心配をしてしまった。
まぁ、そのお子さん方は「おもしろかったー」とか言ってたので、もしかしたら杞憂なのかもしれない。。。
さて、前置きが長くなったが、本作のストーリーのいいと感じたところと、気になったところを書く。
いいと感じたところ。
ひとつは、10代の年頃の考え方や趣向が、ちゃんとストーリーに含む形で描けていたところだ。
例えば、ヒロインの陽菜が怪しげな男たちに連れて行かれそうになってるのを見て、迷わず助けに入る。
…が、大人相手に大立ち回りするわけではなく、かなり危なげに状況を切り抜ける。
よくある最近のアニメ作品だと、危機っぽい状況でもあまり緊迫感がないとか、あるいはあっさり事を終わらせてしまうということが多い。
その点、このアニメでは主人公の帆高はカッコいいんだけど、ちゃんと年相応にカッコ悪くもある。
それ以外にも、帆高と陽菜に関して、そういった年相応らしさを感じられるシーンがいくつもあるのだ。
それがちゃんと描けてるアニメは最近少ない…。
もうひとつが、10代の少年少女である主人公とヒロインだけでなく、大人視点の会話もちゃんと描いていることにある。
本作では、大人サイドのキャラクターとして、須賀圭介と須賀夏美が出てくる。
この2人の会話が、主人公たちの会話の内容と明らかに年齢的な差異がある。
しかも、それにそこそこの時間を取っている。
それなりに歳を取ってしまった自分だが、この2人の会話がとても身近に感じられた。
そして後半になるに連れ、そういった大人サイドのキャラクターが活躍するうように、ストーリーがうまくまとめられている。
そのため、よくあるセカイ系と違って、ちゃんと大人でも楽しめる内容になっているのだ。
もしかしたら、そういった要素によって、単純なセカイ系とは一線を画しているのかもしれない。
一方で、気になった点…本当に些細なことだが。
中盤まで、「ストーリーがどこに向かっているのか?」「主人公は何を目的にしているのか?」が観客に伝わりづらく、いまいち本編に感情移入しにくいことだ。
序盤の帆高の目的は「ひとりで東京で生きていくこと」である。
…が、120分近い映画の序盤の目標としては、いまいち地味である。
中盤以降、陽菜のために帆高が奔走するようになってからは、一気に画面に引き込まれるようになる。
が、序盤はなかなかそうはいかなかったな、と感じた。
それでも、演出で観客に飽きさせないように工夫が感じられるのが、本作のまた評価すべきポイントかもしれない。
演出
言うまでもなく、背景は文句なしに美しい。
特に、「雨が降る描写」「雨が宙に浮き、空へ逆流する描写」「空を飛ぶ(と表現していいのか?)シーンの空の描写」は一級品だ。
これらだけでも、本作をみる価値はある。
そして、新宿を含めた現実世界の描写もまた、素晴らしい。
聖地巡礼好きの心を思い切り掻き立ててくる。
残念ながら、ストーリーのキーとなる代々木の廃ビルはもうすぐ取り壊しになるそうなので、興味があるのであれば早めにいく必要がある。
あとは、「君の名は。」の時にも見られたが、ストーリー的に省略してもいい箇所をテンポよく画面切り替えをする手法だ。
本作では、帆高がライターとして仕事をこなしていくシーンで用いられていた。
これもまた、上記の序盤で飽きさせない工夫のひとつだと感じた。
音楽
前作に引き続き担当しているRADWIMPSの劇伴が、とてもマッチしている。
特に、重要なシーンで流れるボーカル入りの曲は素晴らしい。
逆に曲を聴いた場合に、本編のシーンや盛り上がりが想起される。
これ以上にないほど素晴らしい劇伴だと思う。
映画を見て気に入ったのであれば、RADWIMPSのアルバムを入手して後悔はないはずだ。
個人的に刺さったシーン
陽菜が帆高からもらったプレゼントを取りこぼしてしまうシーン。
帆高が、そのプレゼントを見つけてうろたえるシーン。
そして、須賀圭介が刑事と事務所で会話するシーン。
最後に、帆高が陽菜を助け出すシーン。
いずれも、キャラクターの心理描写がちゃんと表現できてる、印象的な場面である。
一方で、力入ってるなーと感じたのが、雷でトラックが爆発するシーンである。
雷が落ちた瞬間のトラックの破砕の表現だが、妙に力が入ってて感心したものだ。
人に勧められるか?
★★★☆☆ (5点中3点)
決して悪い作品ではない。
ただ、上映中の今、「『天気の子 』っておもしろいの?」と質問された場合に、なんと答えるべきか悩むのだ。
おそらく、その相手がどんな相手かによって答えは変わる気はする。
「賛否両論らしいね、オレは好きだけどさ」
「『君の名は。』ほどすげーおもしろい!って映画じゃないかな」
こんなところだろうか。
「君の名は。」は明らかに誰にでもウケるエンターテイメントとして完璧だった。
が、この「天気の子」は明らかにベクトルが違う。
少なくとも、「君の名は。」みたいなのを期待してる人にはちょっと勧められない。
ここまで読んでも、「やっぱり見てみたい」と思うのであれば、多分後悔はしないと思うが。